2つの自然数が互いに素である確率

はじめに

 先日、数学系Youtubeを見ていたら面白い問題を扱っていたので紹介する。

問題

任意の2つの自然数が互いに素である確率を求めよ。

問題文はシンプルだが、ゼータ関数のオイラー積表示やバーゼル問題が顔を出す大変興味深い問題である。

解答

 ある自然数を考えたとき、それがnの倍数である確率は1/nである。例えば、ある自然数が2の倍数となる確率は1/2、3の倍数となる確率は1/3である。いま、2つの自然数A,Bを取り出したとき、それらが同時にnの倍数にならない確率P_nは、同時にnの倍数になる確率を1から引けばよいので

(1)    \begin{equation*} P_n=1-\dfrac{1}{n^2} \end{equation*}

となる。これを用いると、A,Bが互いに素になる確率P

(2)    \begin{equation*} P=P_2\;P_3\;P_5\;P_7\cdots=\prod_{p:{\rm prime}}P_p \end{equation*}

と書くことができる。ここで、pは素数である。すなわち、A,Bが互いに素になるとは、「同時に2の倍数にならない」かつ「同時に3の倍数にならない」かつ「同時に5の倍数にならない」…ということである。このことを、もう少し具体的に見てみる。いま、A=34,B=15とする。それぞれを素因数分解すると、A=2\cdot17,B=3\cdot5である。A,Bが同時に2の倍数になることはなく、3の倍数になることもなく、5の倍数になることもなく、17の倍数になることもない。従って、A=34,B=15は互いに素である。

 式(2)の計算をさらに進める。

(3)    \begin{eqnarray*} P&=&\prod_{p:{\rm prime}}P_p\\ &=&\dfrac{1}{ \prod_{p:{\rm prime}}\left( \dfrac{1}{P_p} \right) } \end{eqnarray*}

この分母を考える。

(4)    \begin{eqnarray*} \prod_{p:{\rm prime}}\left( \dfrac{1}{P_p} \right) &=& \prod_{p:{\rm prime}} \left( \dfrac{1}{ 1-\dfrac{1}{p^2} } \right)\\ &=& \left( \dfrac{1}{ 1-\dfrac{1}{2^2} } \right) \left( \dfrac{1}{ 1-\dfrac{1}{3^2} } \right) \left( \dfrac{1}{ 1-\dfrac{1}{5^2} } \right)\cdots\\\ &=& 1+\dfrac{1}{2^2}+\dfrac{1}{3^2}+\dfrac{1}{4^2}+\dfrac{1}{5^2}+\cdots\\ &=& \dfrac{\pi^2}{6} \end{eqnarray*}

上式右辺の2行目から3行目への変形にゼータ関数のオイラー積表示を用いている。また、3行目から4行目への変形はバーゼル問題と呼ばれる計算である。この結果を式(3)に代入すれば

(5)    \begin{equation*} P=\dfrac{6}{\pi^2} \end{equation*}

を得る。これが、任意の2つの自然数が互いに素になる確率である。数値で表してみると0.60792…となるので、0.5よりは大きいことが分かる。

補足

 ゼータ関数のオイラー積表示とは次式のことである。

(6)    \begin{equation*} \zeta(s)=\dfrac{1}{1^s}+\dfrac{1}{2^s}+\dfrac{1}{3^s}+\dfrac{1}{4^s}+\cdots=\prod_{p:{\rm prime}}\left(\dfrac{1}{1-\dfrac{1}{p^s}}\right) \end{equation*}

関数\zeta(s)はゼータ関数と呼ばれ、複素数sで定義された関数である。上で用いた変形はs=2の場合である。式(6)の証明は割と簡単に行うことができる。簡単のため、s=1の場合を考える。

(7)    \begin{equation*} \zeta(1)=\dfrac{1}{1}+\dfrac{1}{2}+\dfrac{1}{3}+\dfrac{1}{4}+\cdots \end{equation*}

分母に現れる数を素因数分解して書くと

(8)    \begin{eqnarray*} \zeta(1)&=&\dfrac{1}{1}+\dfrac{1}{2}+\dfrac{1}{3}+\dfrac{1}{2^2}+\dfrac{1}{5}+\dfrac{1}{2\cdot3}+\dfrac{1}{7}+\dfrac{1}{2^3}+\dfrac{1}{3^2}+\dfrac{1}{2\cdot5}+\cdots\\ &=&\left(1+\dfrac{1}{2}+\dfrac{1}{2^2}+\dfrac{1}{2^3}+\cdots\right)\\ &&\hspace{1cm}\times\left(1+\dfrac{1}{3}+\dfrac{1}{3^2}+\dfrac{1}{3^3}+\cdots\right)\\ &&\hspace{1cm}\times\left(1+\dfrac{1}{5}+\dfrac{1}{5^2}+\dfrac{1}{5^3}+\cdots\right)\\ &&\hspace{1cm}\times\cdots\\ &=& \left(\dfrac{1}{1-\dfrac{1}{2}}\right) \left(\dfrac{1}{1-\dfrac{1}{3}}\right) \left(\dfrac{1}{1-\dfrac{1}{5}}\right)\cdots\\ &=& \prod_{p:{\rm prime}}\left(\dfrac{1}{1-\dfrac{1}{p}}\right) \end{eqnarray*}

となる。一般のsの場合も同様である。

 一方、バーゼル問題とは次式のことである。

(9)    \begin{equation*} 1+\dfrac{1}{2^2}+\dfrac{1}{3^2}+\dfrac{1}{4^2}+\dfrac{1}{5^2}+\cdots =\dfrac{\pi^2}{6} \end{equation*}

この式の証明は長くなるので割愛する。興味があればググってほしい。バーゼルとは、この問題を解いたオイラーの故郷の名である。

まとめ

 今回は興味深い問題を紹介した。問題はシンプルであるが、その解答には

  • ゼータ関数のオイラー積表示
  • バーゼル問題

  • が現れる。また、ゼータ関数のオイラー積表示からは、素数とゼータ関数の間の親密な関係も垣間見ることができる。

    参照文献

  • 2つの自然数が互いに素である確率 なぜかアレが出てきます(動画)
  • 数学の力(書籍)
  • Kumada Seiya

    Kumada Seiya

    仕事であろうとなかろうと勉強し続ける、その結果”中身”を知ったエンジニアになれる

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